2006.8.6  山と海をこえて

 直前まで決まらなかった今回の旅。というのも、天気が晴れていなくてはあまり意味がない(注1)からである。

 熊本駅での乗換えが8分しかなく、特急「くまがわ」の自由席は大丈夫だろうかとやきもきしたが、まだ入線すらしていなかった。乗客もそれほど多くなく、杞憂か。
 時刻表での案内は2両編成だったが、実際には3両編成だった。夏休み、しかも盆前1週間ということで増結してくれたのか。最初は空いていたが、八代を出た頃には程よい乗りだったので、この増結は正解だったのかもしれない。
 八代を過ぎてしばらくすると右側に球磨川が寄り添ってきた。肥薩”川線”(注2)の始まりである。満々と水をたたえた姿に車内のあちこちから歓声が上がる。ここ数ヶ月仕事で鹿児島に行った事は何十回とあるが、そういえば球磨川をじっくり見る機会なんてまったくなかったし。なにせうねうねとひたすら川に沿って忠実に走る肥薩線と違って、高速道路だとトンネル&橋で一気に越えていく。ただ、鎌瀬以降は球磨川は車窓の左側に移ったため、右側は景色が極端に悪くなり、ついうとうとと…。この区間は右側より左側がお勧めである。


高千穂アイス\300

球磨川の流れ(JR肥薩線・鎌瀬付近)

 人吉で3時間ほど間があるのでその間にくま川鉄道を往復する。


湯前駅・「レールウィング」(左) 幸せのきっぷたち(右)

"川線"特急「くまがわ」

"山線"「いさぶろう」

 さて。まずは第1のハイライト、”山線”の「いさぶろう」である。これは以前、この区間を乗りつぶした際に乗った事がある(逆方向の「しんぺい」だったか、記憶は定かではない)が、当時はキハ31が用いられていたものが最近では観光列車として改造を受けたキハ40+140の2両編成となり、しかも車内販売のお姉さんまで乗っている。普通列車なのに車内販売とはちょっとびっくり。採算取れるのか?とも思うが、実質的に500円上乗せ(2両中、自由席は7席しかない)することでなんとかなるのだろう。普通に移動したい人にとっては500円は痛いだろうが(実際、夏休みだった事もあり青春18きっぷ保持者もちらほらいた)、観光客には受けるのかもしれない。僕的にもOKである。


鮎ずし(人吉)\890

  約20分で一つ目の停車駅、大畑(おこば)に到着。ここは日本で唯一、スイッチバックループ線が組み合わさった場所である。5分程度停車するので、かなりの乗客が外に降りる。僕も外の空気を吸うために車外へ。それにしてもいい天気。ときおり吹く風が肌に心地よい。後半戦の夕焼けが期待できそうである。


大畑駅(左) 矢岳駅のD51(右)

  さらにそこから30分程度走り、二つ目の停車駅、矢岳(やたけ)へ。ここではD51が展示されており、写真を撮りに行く。屋根つきではあるがだいぶ塗装の傷みが激しい。昨年、老朽化のため現役引退した「あそBOY」の8620型にかわって、ながらくこの駅で一緒に余生を過ごしたコイツを登板させられないか、とも考えたが、ちょっと厳しそう。そんなことを考えながら夢中で写真を撮っていたら、発車の合図があり、あわてて列車に戻る。その途中、ちょっと足をくじいてしまった。
 そしてこの先がこの線一番の車窓。「日本三大車窓」(注4)なのだそうだ。たしかにすばらしい眺め。しかも天気がいいため、遠く桜島まで望むことができた。絶景カナ。もちろんこの観光列車もここのビューポイントでいったん停車する。車内放送で「どうぞ窓を開けて写真を〜」という案内もあったので、遠慮せず目一杯開放してパシャパシャ写真を撮った。(ただちょっと残念だったのが、フレームの中央に松の木がでーんと鎮座?ましましていたこと。まあ、自然に生えているものだろうから仕方ないんだが…)
 いったんスイッチバックして、真幸(まさき)駅に停車。ここでは「幸せの鐘」(注5)があり、やはり多くの人が下車してこの鐘を鳴らしていく。この鐘は少し幸せな人は一回、もっと幸せになりたい人は2回、たくさん幸せな人は3回鳴らす、とのことだったので、迷わず2回鳴らした。彼女欲っすいー。駅舎では即席の野菜直売所になっていたので1パック200円でブルーベリーを購入。甘酸っぱい味が口の中に広がる。


真幸駅・幸せの鐘

真幸駅にて

  この列車は「観光列車」と名乗るだけあり、途中3駅はそれぞれ5分程度の停車時間を設けてある。そのためこのようなちょっとした観光や写真撮影が出来てしまうのであるが、なにぶん5分ゆえちょっと慌しいのが残念なところ。かといってこれ以上走行速度を上げるのは勾配からみても無理っぽいし、さらに前と後ろは接続列車でぎちぎちになっているからこれでも精一杯だろう。しかも上下4本の「いさしん」のうち、この列車だけが所要時間1時間24分とたっぷりと?時間をとられている。


日本3大車窓(JR肥薩線 矢岳−真幸)

錦江湾(JR日豊本線竜ヶ水付近)

 吉松で隼人行きの普通列車に乗り換え、さらに日豊本線、鹿児島本線と乗り継いで川内へ。ここから今日第2のハイライト、肥薩おれんじ鉄道である。日曜日の夕方だが予想に反してけっこう多い。さらに次駅の西川内からは立ち席が出る有様。こりゃ先ほど鹿児島中央駅で買った弁当は無理かな、と思っていたら20分ほど走った西方駅であらかた降りてしまった。確かに言われてみれば浴衣姿の女の子がチラホラ見受けられるし、駅の外も人で一杯。車内の広告を見ると今日はすぐ近くで花火大会があるとのこと。一瞬、楽しそうだな、降りよっか、とも思ったががまんがまん。でもこういう祭りでしっかりと鉄道が利用されている事をちょっとうれしく思った。がんばれおれんじ鉄道!


薩摩っ子のファーストフード?「つけ揚げ」(薩摩揚げ)

黒豚カツ弁当(鹿児島中央)\800

  かなり車内は寂しくなったが、列車は淡々と北上を続ける。さすがに以前は本線(注6)だけあって、線路規格は高そうである。架線下DCながら加速はなかなか鋭く、小気味よい走りを見せる。しばらく海沿いのいい景色が続くが、お目当ての夕焼けはまだまだ太陽が高すぎる。阿久根を過ぎてしばらく内陸部を走り、再び米ノ津を過ぎたあたりで海沿いに出るが、やはりまだちょっと太陽が高い。さらに空全体に雲が広がっていた。たしかにまだ「晴れ」の状態(空全体の90%に雲がかからないと「曇り」とはならない)だが、山線の時のぬけるような青空とは大違いである。そして再び水俣の手前から内陸部へ。しかも今度のは長い。30分以上延々と内陸部を走り続け、ようやくみたび海が見えた時はほとんど日も暮れていて、しかも地平線に雲がかかっていた…。


夕焼けその1(肥薩おれんじ鉄道・牛ノ浜駅周辺)

夕焼けその2(袋−水俣)

  真っ暗になると、だいたい思考はマイナス方向へ向かう。昔から決まって、旅する時のこの時間帯はいつも自問自答タイムだった。とくに乗りつぶしのときにこの傾向が強かった。さらにいい感じのカップルがいちゃついてたりすると・・・。なんで俺はいまここにいるんだろう。いったい何をしているんだろう…。今日もまたその思考回路に落ちこんでいく。
 でも考えたところで答えは出るはずないんだけどね。

 八代駅19:51着。さあ、最寄り駅まであと少しだ。

注1:肥薩おれんじ鉄道での夕焼けがポイントだから。
注2:肥薩線のうち、とくに球磨川に沿って走る区間(八代−人吉)が"川線"、急勾配が続く区間(人吉−吉松)が"山線"と呼ばれることがある。
注4:あと二つはJR根室本線狩勝峠、篠ノ井線姨捨駅。
注5:もともとは業務用で使われていたとか。そもそも、ここはすぐ近くのトンネル(第2山ノ神トンネル)で終戦直後に大事故があり、復員兵50余名(資料により差がある)が命を落としたという悲しい過去がある。
注6:もと鹿児島本線。福岡と鹿児島を結ぶ大動脈だった。さらに先輩格が肥薩線だが、どうみても線路規格は高いとは思えない。時代が時代だったからだろう。

本ページにある地図画像は「白地図KenMap」を用いて作成しています。

旅データ


日程表(カッコ左は到着時刻、カッコ内は乗換駅、カッコ右は出発時刻)
06.8.6(日)(肥後大津)7:41 → 8:20(熊本)8:28 ―〔特急くまがわ1号〕→ 9:52(人吉)10:09 → 10:50(湯前)11:35 → 12:18(人吉)13:02 ―〔いさぶろう3号〕→ 14:24(吉松)14:28 → 15:19(隼人)15:28 → 16:08(鹿児島中央)16:26 → 17:14(川内)17:18 → 19:51(八代)20:08 → 20:44(熊本)21:09 → 21:44(肥後大津)

旅費内訳
交通費\8,620
駅弁(2個)\1,690
 その他食費\1,196
宿泊費\0
その他\1,040
\12,546

 乗りつぶし記録
(今回の路線はすべて乗車済み)

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